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第3話 冷徹侯爵の違和感⑤

Penulis: なつめ
last update Tanggal publikasi: 2026-06-18 21:18:00

「……失礼いたしました」

 先に引いたのは、彼のほうだった。

「体調の悪い相手に言うべきことではなかった」

「ええ、本当に」

「だが」

「侯爵様」

 リリアーナは遮った。これ以上聞きたくなかった。彼の口から何かが零れる前に、扉を閉めてしまいたかった。

「わたくしは、少し疲れておりますの。これ以上のお気遣いは、かえって身に余りますわ」

 丁寧な言葉だった。けれど意味は明白だ。踏み込むな。近づくな。これ以上妙な優しさを向けるな。

 セドリックはしばらく彼女を見ていた。

 その目が、あまりにも静かで、あまりにも痛そうだったから、リリアーナは視線を合わせていられなかった。胸がざわつく。腹が立つ。そんな顔をするくらいなら、どうして前世で何も言わなかったのかと、叫びたくなる。けれどここでそんなことを言えるはずがない。

「……分かった」

 彼は低く答えた。

 そのたった一言に、妙な諦めが混じっていた。まるで拒まれることに慣れている人間のような、あるいは拒まれて当然だと思っている人間のような声音だった。

 リリアーナはそれに返事をせず、馬車へ乗り込んだ。裾を持ち上げ、革張りの座席へ腰を下ろす。
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